能ある狼は牙を隠す


早口でまくし立て、俺は冷蔵庫を開けた。
そして保冷剤を雑に一つ掴み取り、彼女の右手を引く。

そのまま白さんを立ち上がらせて、彼女の頭が自分の肩にも及ばないことを知った。
小柄だとは思っていたが、こうして近くで見ると女の子って本当にささやかだと思う。


「岬」


ドアに手を掛けたところで、背後から名前を呼ばれた。
ああ、まずい。すっかり玄のこと忘れてた。

振り返ると玄は既に制服を整えていて、何事もなかったかのようなイケメン、いっちょ上がり、だ。

白さんはどこか怯えたような色の瞳で、それを見ていた。
あの時、玄じゃなくて俺を見てて良かったと思う。はだけた状態のあいつを彼女が見たら、多分卒倒ものだ。

いいところを邪魔されて機嫌が悪いのか、玄は眉間に皺を刻んでいる。


「邪魔して悪かったって! じゃ、ごゆっくり!」


俺は一方的にそう宣言すると、今度こそ彼女の手を引いて保健室を後にした。

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