恋と、キスと、煙草の香り。
「颯さん…私、颯さんのこと沢山傷つけていたのね。あなたという婚約者がいるのに浮気を繰り返した私は、本当に最低よね…ごめんなさい」

颯さんは謝る私の手をとり、両手で私の手を包む。
そして真剣な眼差しを向ける。

「だったら、僕とやり直そう。今までのことは全部水に流す。僕と今すぐに結婚して、幸せな家庭をつくろう!ねえ、環…」

「でも私は、颯さんと一緒にはなれない。婚約を…解消しましょう」

それでも私の気持ちは変わらなかった。
こんな他の誰かを好きなまま、私のことを純粋に愛してくれる颯さんとは一緒になれない。

「あの男のことを忘れてしまうくらい、これからもっと愛するから。だから…」

私の表情を見て、颯さんは言葉を止める。
そして長い長い沈黙が流れた。
そのあとに颯さんが口を開く。
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