プワソンダヴリル〜甘い嘘は愛する君だけに〜
「どなたですか?」
扉越しに声を掛けてみると、返ってきたのは聞きなれた声だった。

「蜜香?」
「え、峻くん!?」

今日も帰ってくるにしても日付けが変わってからであろうと思っていた彼の声に驚きながら…急いでドアを開けると。

「わぁ…っ」
目の前にいっぱいの赤と甘い香りが広がって、その後ろから峻くんがひょこっと顔をのぞかせた。

「え、今日も遅くなるって…ていうか、どうしたのこれ…」
突然の出来事になんだか頭がついていかなくて、綺麗に言葉が出てこない。

そんな私の目の前で、手に持つというよりは両手で抱えるという表現の方が相応しいほどの大きな薔薇の花束を手にした峻くんが少し照れたように微笑んでいる。

「遅くなるっていうのは嘘。ほら、今日エイプリルフールだから」
「エイプリルフール…」

確かに今日は4月1日。エイプリルフールには間違いない。

「エイプリルフール以外に、今日何の日か知ってる?」
わくわくした子どもみたいに峻くんが尋ねてくるけれど、私にはこれっぽっちも見当が付かなかった。

「…今日で蜜香と同棲を始めて、ちょうど1000日」
「え…」
「1000日記念日、ってことで1000本にしようかと思ったんだけど…実際に見たらさすがに多すぎてさ、100本なんだけど」

ははっと笑いながら「はい、どうぞ」なんて言いながら差し出す峻くんの手から、100本の薔薇の花束を両手で受け取った。
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