聲を聞かせて
第一声
僕らはきっと、知らないだけで 。















私は高校一年生になった 。








高校生ってもっと大人かと思ってたけど、全然そんなことなかった 。









身体だけ成長してる 。









一応将来のことを考えてみたりしたけど、
私の未来は真っ白のままで、
相変わらず同じような毎日を繰り返していた 。







私は姉が通っていて制服があった、
というだけの理由で、

中学からわりと遠い市欧第一高校に通っていて、
孤立せず目立ちすぎずの生活を送っている 。
















5年前春 。


この高校で不可解な事件が起きた 。






その事件は、学校側が揉み消して地域内にしか知られていないけど、外から真実を調べにくる人も多くいた 。












高校の卒業式の前日、


生徒の何名かが行方不明となり、

1人は死亡、
1人は意識不明の重体で見つかり、


あとの3名はそのまま行方が分かっていない 。










入学してから知ったことだけど、




重体の生徒と行方不明の2人の生徒は、
死亡した生徒に対して日頃から暴力をふるっていたらしく、



もう1人の行方不明者は
亡くなった生徒と親密な関係になったとか 。









そして、もう1人の行方不明者というのが、
5年前に消えてしまった私の姉 。






これは、中学校でもわりと話題になって、
私はしばらく「行方不明者の妹」という肩書きのもと生活した 。





実を言うと、関係があったという死亡した生徒について、妹のくせに私はほとんど知らなかった 。









私が中学校で孤立していた時期、
同じように孤立した男子生徒がいた 。







彼が「あの事件で死んだ高校生の弟」と知るまで、姉の同級生に兄を持っているとは、
ましてや姉と関係があった生徒の弟だとは、
思ってもいなかった 。







というか、私はそもそも他人に興味がないのだ 。






だから友達だった人から気味悪がられても、
何も感じなかった 。








劣等感 。悔しい、悲しい、寂しい、怖いなんて 。






















あの人も私と似た目をしていた 。







彼とは小学校が同じだけど、
「同級生」のくせに一切話したいことがなくて、

彼の兄が亡くなった後日の学校で、
初めて声をかけたくらいの仲 。










女子とも男子ともほとんど話さないし、

いつもつまらなそうな顔してるし、

全然笑わないし、声なんて聞いたことない 。
















どんな声で話すんだろう 。







どんな顔で笑うんだろう 。















彼が、通学路の橋で涙を流していたときだった 。




その光景は、私には綺麗すぎるほどで、
私はそこに立ったまま同じように涙を流してしまった 。












「 なんで、泣いてるの 」















私に気づくと、彼は驚いた表情をした 。


そりゃそうだろう、

自分の兄と関係があった行方不明中の姉を持つ同級生が、自分を見て泣いていたのだから 。














「 君こそ 」













少し浅い深呼吸をして私から目を逸らして笑った。
細い髪を風に靡かせて歩き出す 。






私の見たかった彼の顔が見えた 。



こんな顔してたんだね 。






彼の目には、もう涙はなかった 。


















入学して約一ヶ月、高校生生活にはだいぶ慣れてきた気がする 。










20以上偏差値を下げた高校だったから、
勉強は全くといっていいほど心配いらなかった 。


だからそのぶん、人間関係に力をいれた 。








中学の知り合いは一人だけだから、
じゅんぶんやり直せた 。












「 聲ー、購買行こー 」











入学早々意気投合した私の友人代表、
花咲佳穂 ( はなさき かほ ) 。




正直者で、女らしさのかけらもない、
私にはもってこいの理想の性格 。






でも、私は佳穂に姉のことを教えてない 。





それは、気味悪がられるのが怖いとか、
心配されたくないとかじゃなくて、




佳穂は事件のことを知らないから、
聞かれてないのにわざわざ言うことではない、
と私が判断したから 。










そういえば、あの事件のこと、耳にしない 。


五年前のことだから、もう皆忘れてしまったのだろうか 。




それはそれで、少し残念 。













佳穂といつも通り購買で昼食を買って、教室の窓から顔を出しながら食べる 。






私たちはまだ正確に覚えてない校内を走り回って、教室にたどり着く 。食前の運動だ 。








漫画みたいに誰かとぶつかることもなく、無事に教室に到着した 。



五組は階段が一番近いから、本当に私得 。




誰もいない廊下で、一組の方向を向いてドヤ顔を決める 。









そこで、はっとする 。











誰一人としていなかったはずの廊下に、奴が現れた 。私を見て、あの時と同じように笑った 。




変わっていないあの顔で 、あの声で 。









唯一変わった身長に、今度は私が驚かされる 。

















たしかに、この高校を志望したことは知ってたけど、一度も見かけなかったから落ちたと思ってた 。




今考えると、そんなことありえない 。







彼は私より何倍も頭が良くて、成績も良い 。
私で余裕だったんだから、彼が落ちるはずがない 。







軽く二教科満点とれば入れるレベルの高校だし 。













「 なに笑ってるの 」















は、話しかけられた 。
ていうか、こっちのセリフだし 。






声、久しぶりに聞いたな 。


















「 あの 」













私が話しかけると同時に、彼は友人に呼ばれたようで教室に入っていった 。


一組だったことを確認して、私も教室に入っていった 。





違う、ストーカー的なあれではない 。





一組と五組か、そりゃ会うこともそうそうない 。















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