Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 ちょうどいい。一暴れするか。

 俺は二人に近づくと、細い腕を掴んでいた男の手をひょいとねじり上げる。

「い、いてて!」
「嫌がってんだろ。離してやれよ」
「なんだよ、てめえには関係ないだろ」
「関係はないな。けどよ」
 俺は、にやりと笑った。

「嫌がる女性を無理やりホテルに連れ込むのは犯罪だろ。ここで俺があんたに何かしても、正当防衛ですまされるよなあ」
 言いながら、ぎらりと自分の目が熱を持つのがわかった。

 久しぶりだ、この感覚。もう何年も本気だしちゃいないけど、身体が覚えている。
 社会人となってそれなりの身分を確立した今では、ずっと封じ込めていて出したことのない、あの頃の俺。

 そんな俺の雰囲気を賢くも感じ取ったらしいチャラ男は、血の気の引いた顔であわてて逃げ出した。覚えていろ、なんて決まりきった捨て台詞を吐きながら。

 なんだ、つまらん。やんねえのかよ。
 興ざめした俺は、さっさと駅に向かって歩き出した。
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