7年目の本気
過去の清算?

  そして本日、12月23日
  年内の受講予定講義が全て終わった。


「―― あぁ、チケット先に渡しておくわ。31日は
 家の大掃除が終わってから来るんでしょ? うちらは
 早めに行くから」

「その後、利沙達は泊まるん?」

「もちろん! 頑張って予約入れたし! 燃えるよん」


  ニヤぁぁぁっと、利沙が笑う。


「あんたのパートナーも期待しててね。タロがめっちゃ
 イケメン連れてくるさかい」

「そ、じゃね」

「バ~イ!」


  今日は棚卸しでうちの仕事は休みなので、
  ”何しよっかなぁ”と、考えつつ家路を
  辿っていると、スマホが鳴った。
  
  嵯峨野書房からだった。


「はい」

『和ちゃん? 支倉です。部屋が見つかったから連絡
 したんですが今から会社に来られますか?』
 
「伺います」


  もしかして、すぐ住めたりして? 
  いや、それは無いかな?
  交渉次第では住めるか?


  会社に行くと ――、


「―― お久しぶり、いや、相変わらず可愛いね!」


  支倉さんが笑う。


「はぁ……」


  あれっ? この人、こんなキャラだった?


「うちの会社って、ほとんどが男性社員なんだ」

「へぇ、そうなんですか」

「だから、和ちゃんの履歴書見てみんな喜んでたのさ、
 久しぶりの女子社員でおまけにめっちゃ可愛い!」

「はぁ……」

「部屋はご実家にも近い方が良いと思って**付近で
 探したんだが」

「ありがとうございます。助かります」
 

  **なら市バスも地下鉄もあるやん! やった!


「ただ……独り暮らし用の防犯がちゃんとしてる物件が
 見つからなくて、ファミリータイプになったんだ。
 そんな訳でたまに新しく入ったカメラマンの先生も
 使うかもしれない。
 先生もスペアキーは持ってるから」


「先生?」


  先生と一緒? マジで?


「あぁ、大丈夫。ほとんどロケ先で遅くまで撮影してる
 から、いつもは近くのホテルに泊まってるんだ」

「そうなんですか……」

「部屋は2つあるから、好きな方を選んで。これは鍵と
 マンションまでの地図。いつでも引越しできるから」

「じゃあ、年明け早々でも大丈夫ですか?」

「うん。問題ない」

「ありがとうございます」
 

  和巴は深々と頭を下げて会社を後にした。

  
  表通りに出て、しばらく歩いたところで
  マナーモードのスマホがポケットの中で 
  ブルブルブル ――って振動した。
   
  ディスプレイの発信者名は ”晴彦”
   
  それを見て、まだメモリーを削除してなかった事に
  気が付いた。
  
  さっさと消去しておけば良かった……。
   
  通路の端に寄ってガードレールにもたれつつ、
  まだ鳴り続けているスマホをじっと凝視する。
   
  …………  …………
   
  !!それにしても、しつこいっ。
  
  けど、いずれ1度はちゃんと話しせなあかんよね。
  
  それが今だって、後だって大した変わりはない。
  
  かなり迷ったが和巴は震える指先で通話ボタンを
  押した。


    
「……」

『……』

「……そっちからかけて来たんやから、ウンとか
 スンとか言いなさいよ」

『あ、いや……和巴、絶対怒ってる思って……』

「はぁっ??」


  言うに事欠いて 何たる言い草!
  頭にきた。
  
  
「用がないなら切るで!」
  
『待って! 待ってくれ。和巴、ほんまにごめん……』


  気取り屋の晴彦が国訛りの関西弁を使うのは
  かなり本音が出てるって証拠。
  
  
「わし ――」

「晴彦」


  晴彦が何か言いかけたのを、
  和巴は強い口調で遮った
  
  
「言い訳は聞きとうない。聞いたところであなたのした
 事、今回ばかりは許せそうにないの」
 
 
  訴えるように静かにそう言うと、
  電話の向こうはしん……と、静まり返って
  しまった。
  
  微かにだが、男のすすり泣く声も聞こえる。
  ……多分、理玖だ。
  
  そのまましばらく、かすかなすすり泣きの声が
  混じった重苦しい沈黙が続く。
  
  
『……和巴……ほんまにごめん……』

「……けど、このまま……遺恨をのこしたままで
 いるのも嫌やから、気持ちの整理がつき次第連絡
 するからそれまで待っとって」
 
『わかった……おおきに』   

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