7年目の本気
あさひ亭でいつも通り手伝いをした後、
 千早姉やたまたま店にいた常連のお客さん達に
 卒業後は予定通り嵯峨野書房へ就職すると話した。


「―― 良いお話だけど、
 単に匡煌さんから逃げようとしているだけ
 なんじゃないでしょ~ね?」


 千早姉が勘繰る。


「んな事ないよ。元々出版業界の編集に携わるのは
 夢だったんだから」

「けどせっかくマンションまでお世話して頂いた
 のにねぇ……出発までの間はどうする? 
 こっちに戻る?」

「学校に交渉してみる。学生寮もあるし、
 利沙の家も不動産してるから聞いてみる。
 家賃代は貯金もあるし大丈夫」


 考え込む千早姉に、


「住み慣れた土地から飛び出して違った世界を見るのも
 良い人生経験だよちーちゃん。これからは
 グローバルに生きなきゃ! のう? 和ちゃん」
 

 常連の佐久間さんが助け舟を出してくれた。


「……確かに、滅多に無い経験が出来るかも
 しれないわねぇ。だったら自分の決めた道を
 進むといいわ」

「うん、どうもありがとう」


 匡煌さんだって、
 新聞で報道された通り嵯峨野書房の経営を
 持ち直す為、監督委員に就任した。
  
 これで良いんだ。

 私は東京の生活で新しい一歩を踏み出す。

    
 店を後にしたその足で嵯峨野書房へ向かい
 東京支社への配属願いを提出した。

 人事の方が言うには、
 今年の新卒採用者は例年の約1.5割増。
 
 新入社員はこの京都本社での研修が終了次第、
 本社他、日本各地及び海外支社へ配属される
 という。
 
 希望の支社へ配属されるか? どうか? は、
 当該社員のスキル・コミュニケーション能力・
 会社への順応性などを元に決定される、そう。
 
 と、いう事は、高校時代にこの会社でアルバイト
 経験のある自分はかなり有利なんじゃないか?
 とも思ったが、念には念を入れスキルアップの
 講習なんかも受ける事にした。
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