7年目の本気
悲しみが止まらない
その頃、㈱各務では広嗣の緊急招集で開かれた
 役員会も無事(?)終わり、
  
 静まり返った会議室に、憮然とした表情の広嗣と
 もぬけの殻のようになった匡煌だけが残っていた。


「……あんな決定、俺は承諾しない」

「これは彼女 ――小鳥遊さんの希望でもある」

「嘘だっ!」

「今日、会社へ来てお前の処分を取り消してくれと
 言われた」

「ふんっ ―― 兄貴は他人から言われただけで
 素直に応じるようなタマじゃないだろ」

「……マンションから出て行く事、
 そして今後一切お前とは接触しないという
 提示をされ、親父と私はその条件を呑んだ」

「!!……」

「携帯電話の番号も変えるそうだ。
 ……私の所へ来た彼女は手の色が変わる程ギュッと
 手を握りしめ、体も震えてた」

「……」

「本気にお前の事を気遣った末での決断だと思った。
 だからお前も彼女の事はすっぱり忘れろ。
 ……彼女の誠意を踏みにじるな」

「ハハ……俺の気持ちは完全無視かよ」


 ショックで呆然とする匡煌に
 「仕事に打ち込め」と
 ひと言残し広嗣は出て行った。


 匡煌は震える手でタバコに火を点ける。

 取り出したスマホで和巴の番号へかけてみるが、
 ”お掛けになった電話番号は現在使われて
  おりません”
 と、無機質なテープの声が聞こえてきた。

 あいつが、俺の前からいなくなる?
 姿を消した? ―― 嘘だっ!

 和巴は”待ってるから、早く帰れ”と
 言ってくれた。

 あいつが俺に嘘などつくハズがない。

 きっとこれは何かの間違い……そう、悪い夢だ。

 いつものように帰れば、
 和巴は笑顔で迎えてくれる。

 匡煌はタバコをもみ消し立ち上がると、
 小走りでエレベーターへ向かった。
  
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