彼は私の全てだった
抱きしめたい
シュウに思い切り振られた感じで
私は部屋に戻った。

何だかものすごく悲しかったけど
哀しみが深いほど涙は出なくなる。

私は部屋にある冷蔵庫の中の缶チューハイをほとんど飲んでしまい
いつの間にか眠ってしまった。

朝起きると冷蔵庫の前の床に突っ伏して眠っていた。

身体中が痛くて動かない。

明らかに熱があるのがわかった。

とても働ける状態じゃなかったので
私は床を這って何とかスマートフォンを手にすると
ボーっとした頭でマネージャーに電話をかけた。

「おはようございます。柿沢です。

あの…すいません。

朝起きたら…熱がかなりあるみたいで…
本当に申し訳ないんですけど…
今日お休みさせて下さい。」

「え?一人で大丈夫?

声酷いね。

店の事は気にしなくていいからゆっくり休んで。」

電話を切ると何とか這うようにしてベッドにたどり着いた。

身体中が痛くて息苦しい。

暫くすると誰かが私の部屋のインターフォンを鳴らした。

私はもう動けなくてそのままベッドで倒れてしまった。

誰かの手が私の頭を持ち上げ氷枕を入れて、冷たいタオルを額に乗せてくれた。

気持ちよかったが
ふと一人暮らしの私の部屋に誰が居るのかと思って目が覚めた。

「おい、大丈夫か?」

目の前に居たのはシュウだった。

「目、覚めたか?

とりあえずこのお粥食べて薬飲んで。」

「え…?何で…?」

「マネージャーから連絡受けて、様子見てこいって。

いくら呼んでもドア開けないから倒れてると思って
人命に関わるからって無理言って管理人さんに開けてもらった。

本当なら女の彩未に頼みたかったみたいだけど
アイツもう仕事行ってるし
俺は今日、休みだったから。

午後からお前の代わりに出勤になった。」

「…ごめん。迷惑かけて…」

気がつくと着ていた服ではなくパジャマに着替えてる。

「え?まさか着替えさせた?」

「汗すごくて濡れてたから。

知らない身体じゃねーし、
恥ずかしいとか俺らの間にはもう無いと思って…」

「あ…ありがとう。」

昨日、すごく冷たくされたのに
今日は別人みたいに優しかった。

シュウは何の抵抗もなく
私のおデコに自分のおデコを付けた。

「だいぶ熱あるなぁ。
はやく飯食って薬飲め。」

そう言って私の頭を撫でてくれた。

昔みたいに優しいシュウが目の前に現れたみたいで
私は戸惑ってしまう。

「シュウ…あんま優しくしないで。

私…バカだからまた勘違いしちゃう。」

風邪のせいで辛いのか
口からどんどん本音が出てしまう。

そして涙腺も弱くなって
私はシュウの前でポロポロと涙が溢れて止まらなくなった。

シュウは私が飲み散らかした缶を綺麗に片付けながら

「何で昨夜、こんなに飲んだんだよ?

俺、マジで中村さんにお前とのこと言うつもりないよ。」

「そうじゃないよ、私はシュウにとってもう過去だってわかったから…だから…」

そのまま泣き崩れて言葉にならなかった。

シュウが私に近づいて涙を拭ってくれた。

「俺のためになんか泣くな。」

「シュウ…嫌いになってもいいから
私とのことは忘れないで。」

シュウは私を抱きしめて言った。

「そんなこと言うなよ。
抑えられなくなるだろ?」

そう言ってシュウは私にキスをした。

「嫌いになったらこんな事するわけないだろ。」

そして中村さんとは違う
熱くて激しいキスを何度も私に繰り返した。

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