ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)

僕の部屋

「へ~、小洒落たマンションだね~」

コンクリート造りの三階建てのマンション。

大学から歩いて10分程でたどり着く建物の三階に僕が住んでいる部屋がある。

と所長が、車をマンションの入口の前で止めた。

「よーし、到着っと。お疲れさま。トランク開けるよ」

声と同時にガコンと開くトランク。

車を降りて後ろへ回ると、中には膨れた買物の紙袋と、なにやら運動会で水飲み用に使うような蛇口つきのポリタンクが滅菌包装されてあった。

(?)

中には目一杯、透明な液体が入っていてタポンタポンと液面が揺れている。

(そう言えば、栄養剤を飲むって言ってたっけ)

固形物が食べられないから。

「このタンクは栄養剤ですか?」

ポリタンクを軽く叩きながら尋ねた。

「そう。携帯用のボトルも準備してるよ。普段はポーチに忍ばせといて、こまめに飲むようにしてるからその点は心配しなくていいよ。あと、タンクの方は定期的に補充に来るからさ。こっちはくれぐれも取扱注意でね」

タンクをトランクから抱え上げて受け渡してくる所長。

消毒液のようなかすかな臭い。

重くて両手でしっかり抱えないと落っことしそうだ。

これを毎日、ミライは飲んでるのか。

ミライの生命線なんだな。

「わかりました」

受け取って気を引き締めて抱える横で、所長がボストンバッグと紙袋の束をミライに手渡した。

「よぉし。じゃあ帰るから」

えっ、もう帰っちゃうんですか?

「上がって行かないんですか?」

「ウン、研究所に戻らないといけないからさ」

でも、ミライの事とか、もうちょっと話も聞きたいですよ。

「じゃあ、これからミライの事、よろしく頼むよ」

って、もう振り返って車に乗り込もうとしてるし。

「え、あ、はい」

タンクを抱えたまま頷き返して、車に乗り込む所長を見送る。

やがてブロローッと走り出す車。

赤いテールライトが、少し先の角を曲がって夜の闇へと消えていった。

(…)

辺りのシーンと静まり返った雰囲気。

急に『ふたりぼっち』になったんだって実感が湧いてくる。
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