ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「ええ、わかりました」

答えた途端、二人の表情が緩んだ。

「良かった。じゃあ行こうっ!」

パッと前を向いて車を発進させる所長。

横で彼女が微笑んでる。

「良かったですね所長」

偽りのない、素直な微笑。

何も隠してない真っ直ぐな眼差し。

純粋なんだ。

彼女は純粋に研究の為に喜んでる。

(僕が余計な気づかいをしてるだけか)

よし。

僕も純粋に引き受けよう。

彼女の研究の為に。

「ミライさん」

呼びかけてから、彼女が振り向くまで一瞬、間があった。

「ウフッ。ミライって、呼び捨てで呼んでください。みんなにそう呼ばれてるから慣れません」

初めて、彼女のはにかむ笑顔を見た。

ステキな笑顔をしてる。

研究員なんてもったいないぐらいだよ。

「あ、じゃあ、よろしくミライ」

ちょっと照れてしまった。

う~ん、

純粋に、って気持ちがもう、崩れてしまいそうだよ。
< 8 / 321 >

この作品をシェア

pagetop