アンニュイな彼
屈んだときの顎から耳にかけての華奢なラインとか、腕まくりした白いシャツから伸びる意外にもがっしりとした腕だとか、ときどきメガネを外す長くて形のキレイな指だとか。

惹きつけられる先生の一挙手一投足は、枚挙に暇がないほどで。

美術の授業中、ほかの笹原ファンの女子たちは先生のハンサムな瞬間を目に焼き付けようと、きゃあきゃあ浮かれる雰囲気が終始流れていたけれど、私は真面目に授業を受けて、心の奥で優越感を抱いていた。

私は先生の秘密を知っている。
授業中とは違う顔を、気を緩めてみせる無防備な表情を知っているんだ、と。

こんなに気になるのは恋してるからだと実感していくうちに、昼休みや放課後に眺める距離がちょっとずつ狭まった。
一歩、二歩と間合いを詰め、背後から真横から、先生が起きないか念入りに確認し、距離を縮めた。

日が陰ると瞼の奥からもわかるのか、眉がピクリと微動するので注意して、手を伸ばせば届くまでの距離に近づくことに成功した。

こんなにキレイな寝顔を見たことがない。と、大げさなんかじゃなく、溜め息が出た。
先生の隣には、シルバーのタンブラーが置かれている。


『先生、なに飲んでるんですか?』


こっそり話しかけても、大丈夫。絶対起きない。


『コーヒー、かな。』


寝こけた先生の隣にちょこんと膝を抱えて座っていた私は、身を乗り出してタンブラーを見る。
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