アンニュイな彼
ここはsugar gardenという名のカフェ。
私のいとこの智兄こと、藤野智樹が経営している。

学生の頃はずっとラグビーをやっていたお陰で、浅黒くがっちりとした体育会系の見た目には到底似合わず、智兄が作るスイーツは繊細なお味で、コーヒーの焙煎もなかなかの腕前。

毎日手作りしているスティック型のチーズケーキはお客さんに大人気で、たくさんのフレーバーがある。
キャラメルナッツとか、紅茶、シナモンチェリーなどなど。


「ありがとうございました!」


テイクアウトしてくださったお客さんをお見送りした私は、再び一番奥の窓際の席に目線をやった。なるべく凝視しないよう、自然な風に。

高校を卒業してからの約二年半。
まったく会ってなかったけど、彼は全然変わってなかった。

すらっとした体型に、比類のない整った顔立ち。やや茶色く少し長めのうねりのある髪の毛は、無造作にセットされている。腕まくりした白いシャツ、捉えどころのない気だるげな眼差し__。

見つめていると、まるで高校時代にタイムスリップしたような気分になる。

女性の視線を釘付けする、っていうのも相変わらず。
私もずっと憧れて、いつも目で追ってたもの。

その人が今、私の職場であるカフェの、窓際の席に座ってる。
信じられない。こんな偶然があるなんて……。


「……い、おい、愛!」


智兄に声をかけられて、私ははっとした。
なぜなら、つい今まで窓際のテーブル席に座ってたはずの彼が、私のすぐ目の前に立っていたのだから。


「お、お会計です、よね⁉︎ あ、ありがとうございます……!」


尋常じゃないくらい噛みまくってしまった……。
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