アンニュイな彼
3



高校に行った帰りのことは、正直よく覚えていない。
背中に羽根が生えたみたいに舞い上がっていたこと以外。

私、その羽根で飛んで帰ってきちゃったのかも!
なぁんてファンタジックなことを本気で考えちゃうくらい、帰り道の記憶は曖昧だった。


『いいよ。』


あのあと連絡先を交換して、先生の休みに合わせて私が週末に休暇をとることになった。
私が休みたいと申し出ることが珍しいので、当然智兄が訝ったんだけど、隠して変に詮索されるのも面倒だし正直に話した。

まあ、雑誌を届けたお礼をしたいと先生が言ったのなら頑なに断るのもねっていう流れになって、『あんまり遅くなるなよ』と送り出してくれた。(えっと、これは智兄への説明の仕方が不十分だった気がするのは否めないけど)

ここにくるまで偶然と紆余曲折が多々あったものの、意外とトントン拍子で事が進んでいる。(えっとここも、先生が全然乗り気じゃないってことは置いといて)

三年間の片思いも不毛なものじゃなかったのかなぁ、なんてポジティブに思ってみたりして、私は着ていく洋服をワクワクしながら考えて。
緊張でよく眠れないまま、当日を迎えた。

映画館の前で待ち合わせ。


「先生、どっちから来るのかな……」


私はソワソワしながら周囲を見回した。
週末の街中は、駅の方から多くの人が流れてくる。
あの中に先生が紛れて、私の方に向かってくるなんて……。

ごめん、待たせて。寒かった? とか言って、先生が愛用しているマフラーをフワッと巻いてくれちゃったりなんかしちゃったりして!
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