アンニュイな彼
「聞いたか? 愛! ここが女子高生で溢れるなんて、夢みてーだな!」



機嫌を良くした智兄が、サービスだと言ってふたりにスティックチーズケーキを振る舞った。
ふたりがオーダーしたアイスココアを届け、私はさっきから気になっていることを梨沙ちゃんに聞いた。


「ところで梨沙ちゃん、どうして制服なの? 今日土曜日なのに」
「来週文化祭があるんです。その準備でちょっと、部活に顔出して来た帰りで」
「そっか、文化祭シーズンか……」


懐かしいな。
うちの高校の文化祭は、クラスの出し物も凝ってて楽しいと地域でも有名だった。

美術部は総合文化祭で賞もとってるし、先生サボってる場合じゃないじゃん……。
黄昏の光に透けるような美しい寝顔を思い浮かべて、私はクスリと小さく笑った。


「あ、そうだ! 愛もおいでよー。大学も合同でやるんだ。バンドのライブもあるし盛り上がるよ」


生クリームとココアをストローで攪拌しながら、真菜が笑顔で言った。


「うちの大学は留学生たちが母国料理の出店もやるんだ。国際色豊かで色んな国の料理やスイーツも食べれるよ!」
「へえ、それは楽しそうだな」


カウンターの中で智兄が真面目な声で言った。
仕事熱心な智兄は、海外のスイーツに興味津々なのだろう。


「いっそのことsugar gardenをお休みにして、智樹さんも愛と一緒に見て回ったらどうですか⁉︎」


楽しそうな真菜の提案を話半分で聞きながら、私は心にぽっかりと穴が空いたような思いで先生が座ってカウンターのスツールを見つめていた。
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