Umbrella
そんなことを思っていたが、今日と言う日に変化が起きた。
それは今日の部活が職員会議のせいでなくなったところから始まる。
久しぶりの早めの帰宅ということで、部活仲間はこのあと遊びに行こうという話になった。
それを断りまっすぐ家に帰ろうと玄関に足を運ぶ。
ふとグラウンドを見る。
彼女と同じクラスになってから変な癖がついてしまった。
気が付いたらグラウンドを見てしまう。
つい見てしまう。
彼女は今日もいるだろうか、なんて思いながら。
そしていた。
いつもと同じ。
今日の朝登校してきたときに濡らした制服を着て、彼女は回っている。
せっかく先生が乾かしてやってんのに、また濡らしてる。
くるりと回る。
嬉しそうに、楽しそうに。
普段は無視をしている。
何も見ていないかのように。
何も無かったかのように。
だけどこの日は違った。
彼女に近づいて、声をかけた。
なぜこんなことをしてしまったのか自分でもわからない。
「一緒に帰ろう」
そう声をかければ、きょとんとした顔がこちらを見る。
だがそれは一瞬のこと。
彼女は白い歯を見せて笑った。
あ、この顔。
教室じゃ見せてくれない笑顔だ。
彼女の笑った顔をちゃんとみたのは初めてだ。
少しだけドキリとした。
彼女は足元の水たまりを踏む。
若干自分の制服の裾にも跳ねた。
だけど嫌な気はしない。
それはきっと彼女がなんの抵抗もなしに傘の中に入ってきたから。
全身びしょ濡れで、かばんの中からタオルを一枚取り出して彼女に渡す。
「大丈夫」
また白い歯を見せて笑った。
少し大きめのビニール傘。
中学生の男女が中にはいったところで狭いなんてことはない。
なぜかそのことに少しだけショックを受けた。
自分の身体の小ささがわかってしまうから。
早く大きくなりたいと思った。
「家、どこらへん?送るよ」
そう聞けば、彼女は素直に答える。
その場所は俺の家と同じ方向だった。
「じゃあ明日から雨の日は一緒に帰ろう。雨に毎日打たれたら風邪をひくだろ」
なんでそんなことを言ったのかわからない。
だけど口が勝手に動いていた。
彼女は大きな瞳を更に大きくした。
だんだん照れくさくなってきてそっぽを向いた。
家に帰るために歩いていると、隣から小さなくしゃみが聞こえた。
ついでに鼻水を啜る音も。
軽くため息を吐いてかばんの中からタオルを渡す。
「拭きなよ」
「……ありがと」
今度は素直にタオルを受け取って、頭を拭きはじめる。
その間、その場所に立ち止まって彼女を見つめる。
濡れている彼女を見ているとなぜか胸が締め付けられて、泣きたくなる。
どうしてそんな感情が芽生えるのかわからない。
かわいそうだからなのか。
でもそんな同情のような感情ではないことはわかる。
そんなことはわかるのにこの感情の正体を知らない。
「洗った方がいい?」
「いいよ、平気」
「わかった」
タオルをかばんにしまい、二人また歩き出す。
「ねえ!!」
歩きはじめて草々、彼女は何かに気が付いたかのように前方を指さす。
どうしたの、と聞けば彼女は言った。
「色違いのタイルがあるんだよ!!」
彼女が指さす地面には赤と白のタイルが無造作に散りばめられている。
色違いのタイルがあることくらい知ってるよ。
毎日この道を通っているんだから。
それがどうかしたの?
子供の様な無邪気な笑顔で、彼女は白い歯を見せて傘から飛び出した。
せっかく拭いたのに意味ないじゃん。
雨の中、彼女の声が響く。
「赤色のタイル以外踏んじゃだめだよ!」
再び下を見て、そういうことかと納得する。
小学生の低学年の頃、同じ遊びをしたことがある。
そう、小学生の遊びなんだこれは。
14歳になった今そんな遊びはしない。
だけど彼女は時折声を出しながら笑って赤いタイルだけを踏んでいた。
「マンホールはセーフね」
くるりくるくる。
まるで傘が逆さまになって回るように、彼女はマンホールの上で回った。
自然と笑みがこぼれて、彼女と一緒に雨に打たれながら
赤色のタイルを踏んでマンホールの上で踊った。
いつの間にか雨は止んでいた。
だけど、二人して傘も閉じずに夢中で赤色のタイルだけを踏んだ。
それが二人仲良くなったきっかけ。
僕―――宮下一と
彼女―――笠原透が話すようになったきっかけ。