たまゆらなる僕らの想いを
「すっかり凛ちゃんに懐いたねぇ」
女将さんが明るい笑い声を響かせ、八雲君の頭をポンポンと叩く。
照れてそっぽを向いてしまった八雲君に苦笑すると、女将さんが「凛ちゃん」と優しい声で呼んだ。
「ここは、あなたのもうひとつの家だよ。いつでも、帰っておいでね」
温かい言葉と柔らかい笑顔が、私の心にゆっくり染み渡る。
「……はいっ!」
私の目から堪えきれずぽろり涙が頬を伝って、慌てて手の甲でぬぐった。
八雲君が心配そうにこちらを見たから、私はまた零れた涙を指で受け止めて笑ってみせる。
すると。
「凛お姉さん、うちに泊まってくれて、助けてくれて、いっぱいありがとう」
そう言って、女将さんに似た顔で微笑むから。
「こちらこそっ……いっぱいありがとう」
私は泣きながら笑うという器用なことをして、女将さんたちに笑われて。
別れを惜しみ涙を流しながらバスに乗り込むと、港を目指したのだった。