たまゆらなる僕らの想いを


この花びらは光ったりしていないし、現実的にそんなことはあり得るはずもないのはわかっている。

でも、どこからこの花びらがやってきたのかが気になって、私は辺りを見渡し桜の木を探した。

近くに植物園のようなところがあるのではと、展望台を降りて少し歩くと。

また、ひとひら。

桜の花びらが風に乗って私の元にやってきた。

それはひらひらと風に舞い、まるで導くように薄暗い林の入り口に落ちる。

見える限りきちんとした道はなく、細い獣道が伸びているのみ。

進んでいいものかと躊躇っていると、ふと、林のずっと奥に明るい色を見た気がして。


「……大丈夫」


少しだけ進んで、何もなさそうならすぐに引き返そう。

ダッフルコートの中から勾玉を引っ張り出してギュッと握りしめると、日差しの遮られた林の中へと一歩踏み出した。

木の枝や枯葉を踏みながら、やや足場が不安定な獣道をゆっくりと進む。

藪の中から動物や蛇が飛び出してきそうで、歩みの速度とは反対に早く早くと気が急いて。

風が葉を揺らす音にさえビクビクしている私の鼻に、再度、甘く上品な香りが届いた。

さっきよりも強く感じる香りに、桜の木が近くなっていると確信した直後。


「えっ」


香りの出どころに気を取られていたせいで、あると思っていた地面がいきなりなくなり、私は声を上げる暇もなく、傾斜のきつい土の上を滑るようにして落下した。



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