たまゆらなる僕らの想いを
ハッとして顔を上げる。
音楽も何もつけていない静かな自室には、私の息遣いと、壁掛け時計の秒針が時を刻む音だけが聴こえているのみ。
どうやら私はテーブルの上に突っ伏して寝ていたようだ。
読んでいた文庫本は白い折り畳みテーブルから落ちて、毛の長いラグマットに倒れている。
私はそれを拾い上げながら、壁にかかるアンティーク調の丸い時計を見た。
もうすぐ日付が変わろうとしている。
家には私以外の気配は感じられず、母は彼氏と昼間からデートに出かけたきりで、まだ帰ってきていないようだ。
「……ナギ」
夢の中、最後に紡いだ名前を呟く。
顔は見えなかったけれど、呼んだら手を伸ばしてくれた。
それなら、あれはきっとナギだったのだろう。
私は、首から下がる勾玉をそっと手に取り眺めた。
五百円玉ほどの大きさがあるこの勾玉は、八年前……私が小学校三年生の時に転校する際、仲良しの男の子の一人、ナギからもらったものだ。