熟恋ージュクコイー
私は真野さくら。

48歳、世で言うおばちゃん。

小さな商社で営業事務をしている。

さっき起こしてくれたのは、娘のカンナ。

大学に入り、学校やバイトに忙しそう。
母親の私が寂しさを感じるくらいに、自立している娘。20歳って、そんなもんか。

我が家の家族は、あと1人。
息子の大輝。25歳。
留学していたカナダで就職した。
そんなわけで、今は娘と私の二人暮らし。

夫はいない。
だいぶ早めに、天国に旅立ってしまった。
もう5年。
長いような、短いような、そんな5年だった。

こんな早くに別れることになるなんて想像もしてなかったけど、職場での急な心臓発作で、あっという間にいなくなってしまった。

葬儀が全て終わったあと、1人呆然と遺影を見つめながら、何も考えられない日々が続いた。

そんな時ふと、お腹空いたな…と思った。

欲求には逆らえない自分が、なんだか可笑しくて、思わず、ふっと笑った。

それを見たカンナが

『お父さんさ〜、きっと笑ってる私たちを見ていたいんじゃないかなぁ?』

と言い、大輝もうんうんと頷く。

それで目が覚めた。

たしかにもう夫はいない。

でも、私たち残った家族は生きている。

生きていかなくちゃな、と。

それから、気持ちを入れ替え、就職先を探した。
なにせ長い間専業主婦をしていたので、働かせてくれる場所があれば万々歳!という状態。

夫の遺してくれたお金は、これからの子供達に使いたかった。 


日々のお金を稼ぐため、何度も面接を受けながら、不採用の連絡を受けながら、やっとのことで就職した。

その時に拾ってくれた、今の会社には本当に、本当に感謝している。

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