惚れ薬
「で、あれが田中君の飲み物ね」


体育倉庫の近くにあるベンチに置かれた飲み物に視線を向けてそう言った。


一番大きい黒い水筒が田中君のものらしい。


「どうする? 誰が入れる?」


初美にそう言われて、あたしは視線をそらせた。


田中君に好きになられても嫌な気にはならないけれど、航のことが気になる。


真弥も人の飲み物に触れることが嫌なのか、手を上げようとしない。


「もう、仕方ないなぁ」


初美がため息交じりにそう言って、ベンチへと近づいていく。


サッカー部たちは練習に専念しているため、こちらを見ていない。


今がチャンスであることに間違いはなかった。
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