あしたの星を待っている


おっしゃる通りです。

返す言葉がなくて俯いていると、「先生はちょっと触るぞ」と断ってから私の右手を取った。脈を測るみたいだ。

静かな保健室の中、時計の音だけが聞こえる。

たった1分が、とても長く感じて、耐えきれず右手を引っ込めた私に、先生は優しく微笑んだ。


「もう大丈夫だな」

「お世話掛けました」

「うん、それは矢吹にも言ってやれ」

「えっ? る……矢吹くんに?」

「君をここまで運んでくれたんだぞ」


そうなんだ、瑠偉くんが。

私、完全に意識を失っていたんだろうな、運ばれていた時の記憶が全然ない。

冷水器のある場所から、この保健室まで結構距離あるのに。

また迷惑をかけてしまったんだ。



不意に、コツと軽く頭を叩かれた。

見るとバインダーを持った先生が、涼し気な表情でこちらを見ている。


「自分ひとりで抱えていたら、いつか爆発するぞ」

「え?」

「悩みがあるんだろ? 人には簡単に言えないようなものが。誰かに聞いて欲しいけど、言うのが怖くて、言ったところで解決するわけないし、自分さえ我慢すればいいやって思ってるものが、ここにあるだろ」


また、コツ、コツ、と頭を叩かれた。

だけど、全然痛くない。

痛いのはむしろ心の方だった。




< 62 / 171 >

この作品をシェア

pagetop