愛は、つらぬく主義につき。
 エレベーターの到着を待って、車椅子ごと三人で乗り込む。
 遊佐はゆっくりでもちゃんと歩ける。でも街には至るところに段差や階段があって、バリアフリーってどこが?って言いたくなるのが実情。かえって脚に負担がかかるだけだし、初めから車椅子にしてしまう。
 本人は涼しい顔で。自分にラクな生き方すりゃいーんだよ。って。

 あたしに言ってるみたいにも聴こえた。


 ふと。
 買い物終わったら公園でも散歩しよっか。遊佐も座ってばっかじゃ窮屈だろうし。まだ満開には早いけど、桜も見られるトコ。 
 思い付きを、呉服売り場のある六階で降りてすぐ遊佐に提案。

「いーね」

 即答で返った。

「ナンか買ってって、花見するかぁ」

「何なら榊も呑んでいいよ? あたしが運転するし」

「・・・ふざけろ」

 仏頂面の榊は取り合ってもくれない。
 でも本命の買い物が終わったらね、黙ってても連れてってくれるハズ。そういう男だもん、あんたって。
 ニンマリ笑んで見せたら、嫌そうに顔を背けられた。

「じゃあ、さっさとおじいちゃんの買い物済ませちゃお!」

「さっさとって。会長が聴いたら泣いて喜びそーなセリフだな」

「ちゃんとキモチは籠めるってばぁ」

 遊佐の呆れ顔にしれっと舌を出して見せながら、車椅子に添って売り場へと歩き出す。

 
 前と同じように。街中を二人で手を繋いで一緒に歩くことは、もう出来ない。
 “元”に戻らないもの、変わってしまったもの、・・・あたし達には沢山ある。

 でもね。遊佐を愛してるってそれだけは。あたしの連れ合いはあんただけっていう、それだけは何があったって。

 変わらないって教えてあげる。
 この先、あたしの一生を懸けてね。
 


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