愛は、つらぬく主義につき。
 思い出して合間に、死ぬほど心配してるだろう紗江にも取りあえずラインで報告。
 仁兄との結婚は無くなったこと。遊佐との婚約を発表して、今は実家で大宴会中なコト。
 速攻、電話がかかって来て。

『良かったぁっ、宮子ぉっっ』

 号泣されて、あたしも泣いた。
 
 紗江が。諦めないのがあたしの武器だって。あの時言ってくれなかったら今、膝の上で気持ちよさそうに眠ってる温もりのぜんぶが幻だった。
・・・戦えなかった絶対に。 

「紗江のおかげだよっ。ほんとにありがと・・・っっ」

 言葉に詰まり、グズグズでひどい涙顔のあたしに。
 横から榊が黙ってハンカチを差し出してる。

 落ち着いたら、今日の一部始終を詳しく聴かせる約束をした。
 通話を切ってもしばらく涙が止まらなくて「・・・大丈夫か」って低い声。
 
「・・・もうね。ムリって折れかかってたのを、紗江が諦めるなって思いっきり背中叩いてくれたの。紗江がいなかったら、今ごろ仁兄と結婚して一生後悔してたかもしれないんだからぁ・・・」

 貸してもらったハンカチで目を押さえながら、鼻をすすり上げる。

「・・・・・・悪かったな。そんなに後悔するほど嫌われてたとは知らなかったが?」 

 ・・・・・・あれ?、この声。
 
 やけに冷んやりした空気を感じて、恐る恐る顔を上げた。
 固まった視線の先に、胡坐をかいて座ったスーツ姿の仁兄がいて。底冷えしそうな眼差しをすっと細め、口の端を歪めてた。

 榊は知らん顔してるし、そのあとの言い訳に必死なあたし。

「仁兄がキライとかじゃないからぁっ」

「なら証明してみせるんだな」

「証明って、えっと、どーやって?」

「今後一切、俺の誘いは断るなよ? それが守れたら赦してやってもいい」

 口角を上げて、ほくそ笑まれてる。


 そう言えば、式の時も『妹溺愛宣言』されてたっけ。
 涙も引っ込んだ顔に乾いた笑いが張り付く。

 ・・・ごめん遊佐。
 どっかの魔境から、すごい威力のシスコン兄(モンスター)を召喚しちゃったみたいよ?、・・・あたし。
 

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