愛は、つらぬく主義につき。
 今日は金曜の夜だから、本当は逢ってるハズだったんだけど。
 寄り合いがあって本部に詰めるからって。そのまま泊りになるかも知れないから、来なくていいって言われた。
 明日は午前中に掃除洗濯まるっと終わらせて、午後から行くつもりでヒマになっちゃったし。それで久々にユキちゃんトコに足が向いたって次第。

「そう言えば先月、会長の古希祝い盛大にやったって聴いたわよ?」
 
 マドラー入りの葡萄色のグラスを置いてくれながら、ユキちゃんが視線を傾げた。

「あーうん、芸者さんまで呼んでね。おじいちゃんも喜んでたし良かったんじゃない?」

「じゃあ一ツ橋総出で、お客さん多くて大変だったでしょ?」

「あたしの顔、知らない人もいるしねぇ。料理とかはね、ぜんぶ瑤子ママが仕切って、おばあちゃんも手際を褒めてたぐらい」

「哲司さんのお嫁さんはさすがよねぇ」

 哲っちゃんの名前を口にする時、ユキちゃんはちょっと切なそうな表情をするの。・・・わかるよユキちゃん。哲っちゃんはほんとイイ男だもんね。
 イイ男って言えば!

「あ、ねぇユキちゃん、相澤さん知ってる?」

「三の代理の?」

 『一ツ橋三の組、若頭代理』が、かなり略されて返される。

「あのひとカッコいいよねぇ! すっごい愛妻家なんでしょ?」

「オリエちゃん、って美人で清楚な年下妻を溺愛してるのよ。お子さんもお嬢ちゃんが二人いてね、食べちゃいたいくらい可愛いんだから」

 見てきた様に話すユキちゃんにあたしは目を丸くして。

「よく知ってるねぇ」

「弟がね、代理の家で住み込みやってるからイロイロね」

 声を潜めて唇に人差し指を当て『内緒』って仕草。 

「マコトちゃんは知ってるかもね、フジシロ・タカオって言えば」

「そーなの? 知らなかった!」

「そうなのよー。言ってないものー」

 蜘蛛の巣みたいな柵(しがらみ)と秘め事で出来てるの、このセカイは。
 ユキちゃんはそんな風に言って、シニカルに口許を緩ませたのだった。
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