愛は、つらぬく主義につき。
視線で頷かれ、もし、と前置きをして先を続ける。

「自分の力で織江さんを守れなくなったら･･･相澤さんならどうしますか」

訊いてみたかった。立場が違うコトは重々承知のうえで、“一ツ橋の虎徹”って呼ばれるほどの人がいったい何を選び取るのかを。

あたしの問いに相澤さんはコーヒーカップに目を落とし、暗褐色の水面に目を細めた。

「･･･後はすべて藤代に任せます。自分に出来るのは禍根を断って、織江に降りかかる火の粉の始末をつけることぐらいですから」

静かで深い声にじっと耳を傾ける。

「この命ひとつで間に合うなら迷いもしません」

自分を差し出して引き換えに守る。ひどく相澤さんらしい、潔くて。

でも。なら彼女との約束は？相澤さんがいない世界に遺される彼女の絶望を貴方は。生きるほうがどれだけ辛いかも知れないのに。
　
「･･･織江さんを置いて逝くんですか？」

「夫として母親の責任を放棄させないことが務めです」　

躊躇なく言い切られる。あんなに一途に相澤さんを想ってるのに。口から出かかったのを呑み込んだ。

一緒に連れて逝かないことが、今の相澤さんの覚悟なのかも知れない。残される子供達から織江さんまでをも奪いたくないって。

そのとき織江さんはどうするんだろう。誰の為に道を選ぶんだろう。どんな愛を貫くんだろう。

胸の奥が締め付けられた。織江さんには泣いて欲しくない。ずっと幸せそうに笑ってて欲しい、あの優しい笑顔で。

あたしは相澤さんを見つめ返した。

「･･･そんなに大事ですか、守ることって。女をどれだけ泣かせても？」

「この世界は、お嬢さんが思うよりずっと簡単に命が消されます。守れないことと死なせることは同じ意味を持ちます。･･･遊佐の若が間違いだと自分は思いませんよ」　

相澤さんは真っ直ぐに答えた。
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