お見合い結婚した夫が最近おかしい件
1章 高嶺さんと私
重たい足を引きずってやっとのことで家にたどり着く。最初は夜景がきれいだと思っていた高層マンションの最上階も慣れてくるとエレベーターの時間が長く、もっと下層階でも良いのにと思い始めるのだから人って贅沢だわ。

パンパンに浮腫んだ足をハイヒールから解放すると、ため息が出た。

今日もマジで忙しかった・・・


私、兵頭千里は弁護士という職業について8年。30歳という年齢は新米とは言い難いが弁護士としてはまだまだの部分が多い。特にうちの大先生は超有能なベテラン弁護士で、比べる相手が凄すぎると、勉強しても勉強してもその人と自分の実力差を思い知ることになる。

その大先生に少しでも追いつこうと毎日必死に働いている。まぁ、先生はもう大ベテランにも関わらず、向上心が半端じゃないから、いつまでたっても追いつける気がしないけど。

そんなこんなで、一日馬車馬のように働くと、家に着くころには一歩も動きたくなくてリビングのソファーにダイブする。

目を閉じると、秒で意識が飛びかかる。が、玄関の方から物音がした。

夢の世界に導かれそうな頭を無理やり起こすと、今の自分の姿はスカートもめくれあがっている、あられもない姿になっていることに気が付いた。。


とりあえず座ろう。


無理やり身体を動かしてどうにかソファーに座りなおしたとき、リビングに音の主が入ってきた。

音の主は、すらっと背の高い、清潔感のある男性だ。すごく真面目そうで、整った顔をしている。何を隠そう、もうすぐ結婚して1年になる私の夫だ。


「高嶺さんおかえりなさい。」


だらしない姿を見られずにすんで、内心ホッとしつつ声をかける。


「ただいま。千里さんも今帰ってきたところですか?」


「そうです。」


「今日も忙しかったんですね。お疲れ様です。」



「いえ、高嶺さんこそ、遅くまでお疲れ様です。」


結婚して1年も経つのにどこか他人行儀なのは私たちが恋愛結婚ではないから。いや、恋愛結婚じゃなくても酷いレベルだということは十分自覚しているけれども・・・。


「晩御飯は食べましたか?」


ネクタイを外しながら、高嶺さんが尋ねてきた。


「えぇ。食べました。高嶺さんは?」



「僕も。接待だったので。」


「そうですか。あ、お風呂お先にどうぞ。」


「では、お先にいただきます。」



高嶺さんは、自分の部屋から着替えを持ってくると、そのままバスルームへと向かった。


高嶺さんの姿が見えなくなると、私はため息をついた。


高嶺さんは、いい人だし、この生活に不満はない。ただ、彼が完璧すぎてなんとなく高嶺さんの前で気が抜けないのが難点だ。

まぁ、彼も私も忙しすぎてほとんど顔を合わせることはないけれど。
< 1 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop