お見合い結婚した夫が最近おかしい件
19時を少し過ぎたころ、高嶺さんから連絡が入った。


「すいません、先生。お先に失礼します。」

「いいよいいよ。デート楽しんできてね。」


先生はニヤニヤしながら手を振った。反論しても時間の無駄なので大人しく事務所を出た。

近くの大通りに出て、キョロキョロすると、見慣れた車を見つけた。かけよると助手席から男の人が出てきた。

おそらく新しい秘書さんだと思って挨拶しようと、その人を見て私は驚いた。向こうも同じように驚いている。


「圭?!」

「千?やっぱり千だったのか!!」


すると、後部座席の窓が開いて、高嶺さんが顔を出した。


「千里さん、どうしましたか?」

「高校の同級生なんです!」

「西園くんと千里さんがですか?」
「はい」


そう。驚くべきことに、高嶺さんの新しい秘書が私の高校の同級生の西園圭だったのだ。

いつも冷静な高嶺さんも驚いてるみたい。

「千、とりあえず車に乗って。あまり長く止めていられないから。」

「そうだね。」

圭がさらりと後部座席のドアを開けてくれたので、私は妙に照れてしまった。

「何か、圭にドア開けてもらうなんて変な感じ」

「何でだよ。俺はもともと紳士だからドア開けたことくらいあるだろう?」

「いやいや。いくら優しくても、さらっとドア開けられる男子高校生なんて日本にいないよ」


そんなことをやいやい言いながら後部座席に乗り込んだ。圭も助手席に乗り込むと、車は静かに動き出した。

運転席には、高嶺さん専属の運転手さんの今野さん。


「今野さん、お久しぶりです。今日は、迎えに来ていただいてありがとうございます。」


「いえ。これも仕事ですから。それに奥様ためならどこまでも迎えに参らせていただきますよ。」


今野さんは、さらりとこんなことを言ってしまう人だ。キザとかそういうのではないけど、とにかく優しそうな人である。そして、当たり前かもしれないけど、とっても運転が上手。


ふと、高嶺さんを見ると何だか考え事をしているように見えた。

「高嶺さん、どうしましたか?」

「いや。どうやら紹介する必要はなさそうだと思いまして」


「そうですね。」

思わず笑ってしまった。
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