愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~


どうしよう。この場合、ひたすら謝った方がいい?
それで済むかな?
どうにかして上手く鍵を開けて中に入れないだろうか。
というか、あんなところを見られたくらいで待っているなんて心狭くない?
そもそも、他人の男が待ち伏せているっていうだけで、かなり怖い状況だよね?
最悪、駅の反対側にある交番までダッシュして助けを求めるしかないかな? でもそうなっても後が怖い気がする。

ぐるぐると考えるが、やはりここは謝ってさっさと逃げるべきだろうと結論づける。


「あの、昨日のことでしたら……」
「そう。昨日、ここにいたよな」


低く、少し甘めの通る声は耳に心地いいくせに気分は上がらない。
声からして怒ってはいなさそうだけれど、淡々としており感情がないようにも聞こえる。


「はい。あの、すみません! 見てませんから」
「いやいや。見てただろ?」
「あの、その」


顔をばっちりと覚えられている。
最悪だ。疲れているところにこんな仕打ち。泣きたくなっていると、目の前に男性の手が差し出された。
ビクッと身体を震わせ、一歩下がるがその手のひらに乗せられた物を見て驚く。


「えっ?」


その手には、小さなリボンの形をしたチャーム。
見覚えのある形に、バッと鞄を見るといつもそこに揺れている物がなくなっていた。


「これ……」
「ここに落ちていたんだ。お前のだろう?」


確かに私のだ。いつも鞄にこのチャームを付けていた。
今日一日、なくなっていたことにすら気が付かなかった。

もしかして、これを拾ったから渡すために私を待っていたのだろうか。



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