愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~
「朝比奈? どうかしたか?」
自分の思考に自問自答しながらボンヤリとしていたのか、藤堂先生に急に声をかけられてビクッと身体が跳ねた。
その瞬間、泡まみれの手からガラスのコップがツルンと滑り落ちる。
「あっ!」
シンクに落ちたコップは音を立てて二つに割れてしまった。
「痛っ!」
「朝比奈!」
コップが割れたときに指を切ってしまったようで、人差し指から真っ赤な血が流れ出ていた。痛みはあるが、その前にコップを割ってしまったことに申し訳なく思ってしまう。
「あちゃー。先生、すみません。コップを割ってしまいました」
「そんなのはどうでもいい。見せてみろ」
「ひゃぁ」
藤堂先生は私の手を掴み、血が流れている指を水道で洗う。
「あの、先生」
「指に破片は入っていないな?」
先生は私を後ろから被うようにして指を洗っている。背中から感じる温もりに、一気に心臓が激しく打ち出す。
「よく泡を落とすぞ」
「はい……」
耳元に先生の顔が寄せられ、振り向くことが出来ない。