恋を知らない
6 (回想)

初めて「めぐみ」に出会ったのは3週間前のことだ。

その日、ぼくはスニーカーを買うために、市の中央にあるショッピングモールへと出かけた。

もちろんマリアといっしょだ。ぼくたちは外出するときには、原則としてマリアロボットと同伴でなければならない。

ショッピングモール前でバスを降りて、入口のほうへ歩いていくと、前方で女の子の「きゃっ」という短い悲鳴が聞こえた。

見ると、リボンが風に舞い、ぼくのほうへ飛んでくるところだった。数メートル先から、女の子が必死の表情で宙へ手をのばし、こちらへ駆けてくる。

たぶん、髪のリボンをほどいたところ、風にあおられて飛ばされた、といったところだったのだろう。


ぼくは片手でなんなくリボンをつかまえ、

――どうぞ。

と、駆け寄ってきた女の子に差し出した。

――あー、すみませーん。

女の子は何がおかしいのか、ケラケラと笑いながら、ぼくの手からリボンを受け取り、おじぎした。

とたんに、ドクン、とぼくの心臓が脈を打った。

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