恋を知らない
11 エピローグ

(あ、まただ)

歩きながら、ぼくはちらりと後方に視線をやった。

二十代のOL風の女性ふたりが立ち止まって、ぼくらのほうを見ながら、何かを噂している。彼女たちの表情は楽しそうで、ぼくらの悪口を言っているわけではなさそうだ。

このところ、ふたりで歩いていると、ちょくちょくこんな場面に出くわすようになった。

「ねえ、マリア、何だかぼくら、ずいぶんと注目されてるみたいだね」

ぼくは並んで歩いているマリアにそう呼びかけた。

今日は日曜日で、また映画にでも、という話になった。もちろんロマンスシートなんていう高価なものは買えないから、一般席に座ることとし、交通手段もバスだ。先にIT用品の店に寄って、修理に出していたウェラブル端末を受け取り、歩いて五分ほどの映画館へ向かっているところだった。

マリアはぼくの呼びかけには応えなかった。ツーンとすまして歩き続ける。

今日のマリアの服装は、シルク地のブラウスと膝丈のセミタイトスカート。薄いサングラスをかけてさっそうと歩いている姿は、美人のキャリアウーマンにしか見えない。

「マリア?」

ぼくは再度呼びかけたが、マリアは聞こえない様子だ。

< 55 / 58 >

この作品をシェア

pagetop