それでも僕は君を離さないⅢ
咲良は前を歩く樹里の後ろに並ぼうと歩を緩めた途端、いきなり横から柄物のストールを派手にまとった女が割り込んできた。

しかもその女のムッとするようなキツい香水が咲良の全身に振りかかった。

思わず顔をしかめて真後ろの慎二に目で助けを求めた。

「変わって。」

「OK。」

慎二は分かっていると目配せして咲良と入れ替わった。

フレグランスに対しては特に気にならない慎二と違い、咲良は香りに敏感だった。

ブランドものの強烈なコロンは鼻の奥から脳内の神経に直結して不快感を増幅されるだけだ。

さらに樹里との距離が遠のいた。

なぜなら臭いストール女の前に長身のモデルのような男がいきなり加わったのだ。

その男のせいで樹里がまったく視界に入らなかった。

徐々に前へ進んだ。

咲良は鼻腔内に付けられた匂いがまだ消えず、彼女の姿が目に映らない状況にめまいがしてきそうで、エスカレーターのベルトにつかまって何とか耐えた。

見上げても4人前にいる彼女は少しも見えなかった。

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