桜色の雪が降る

ファーストコンタクト

第3話 ファーストコンタクト

「あ、もしもし」

最初に声を発したのは彼女の方だった。
第一声でつい最近放送していたアニメ、『実主義』のキャラクターの一人として登場していた女の子が脳裏をよぎった。

まじか。まじかまじか。

可愛い……!

僕は母さんが電話に出るときみたく、少し高めの声で

「どうも、こんにちわ」

と返した。

「こんにちわ~」

と谺響する。

大丈夫。見知らぬ人と話すことは初めてじゃない。とあるインクを撒き散らすタコゲームで幾度と無くFF外(フォローフォロワー外)の人に突撃してきた。それにひとつ前の彼女と初めて話した時も、初夜にも関わらず深夜まで2人で話した。

実績のある僕のトーク力でこの子を落とす!

自己暗示をした後、出来る限り間を開けぬように脳をフル回転させた。

「えっと……そういえば掲示板に書いてなかったけど、いくつなの?年齢」

まずはこの子のことを知ることからだ。

「18だよ」

透き通った声で短く答えた。

「おお、意外と近い……1個上だね」

「そうだね、君は高校2年生?」

質問が返ってきた。Skypaちゃんヌーwの女の子の特徴として、声が気に入らなかったら即効で切るというのがある。これには引っかからなかったようだ。

推測するに、年齢の問題もないだろう。ちゃんと自己紹介として17歳と書いていた。

「そうだよ。先輩だね!」

「ふふふ、宜しくね後輩くん!」

小さく笑うと煌びやかな声にさらに磨きがかかり耳から心へと幸福が届いた。

「は~い!あ、なんて呼べばいい?」

ユーザー名は小雪(こゆき)と書いてあるが初対面でいきなり人の名前を気安く呼ぶような真似は出来ない。せめて、さんを付けて呼ぶべきだが、敬語で話す方がおかしいこの界隈では堅苦しいことは嫌われている。
なので、呼び方を予め聞いておけば自然な感じで名前を呼ぶことが出来ると判断した。

「小雪でいいよ。そっちはいつもなんて呼ばれてるの?」

「もとだよ。ずっとそう呼ばれてる」

Twitteeを一年半前に登録したその瞬間から今まで、ネットの中ではこの名前で呼ばれ続けている。
名前の由来なんてつまらないもので、本名ほど深い意味合いは持ち合わせていない。
元利のもとを取っただけだ。

「もとかー、じゃあもとくんって呼ぶね!」

「もとくんか、いいよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



体育後の昼休み、僕は酒井と原西に一昨日の出来事を話していた。
人の惚気話に興味津々なのも少しどうかと思うが、もっとおかしいのは僕の方だ。ネットの女の子にこんなにも惹かれるなんてどうかしている。

男ばかりのこの学校のせいだ。そうに違いない。

「まあそのあとは趣味とか聞いたりしたんだけど、すぐに親フラだって言って落ちちゃったよ。昨日も声かけてない」

「ええ……それって一回切りのやつじゃ……」

原西め、それは痛恨の一撃だ。

「いや……まあでも、そうかもなー……でもまだ恋愛の好きって感じじゃないと思うし諦めるよ」

惹かれているだけであって、恋じゃない。
そのはずだ。

「諦めるなよ!もう1回話して、そんでその声を録音してきてくれ!」

酒井は大好きな声優の声に似ているとあれからずっとこの調子だ。

「だからプライバシーがあるって!」

「ええ~、原西も聞きたいよな?」

椅子をガタガタ揺らしながら俺の隣に座る原西に振った。

「そうだな!聞かせろよ!」

おいおいそこは止めてくれよ。

弁当の蓋を閉じながら立ち上がり、きっぱりと言い放つ。

「だが断る!」

下からブーイングの声がするが、無視して弁当と水筒を片付けた。空になった弁当箱を仕舞いにロッカーへ向かう。

廊下は教室と違い冷える。
外を見ると綺麗な紅葉が雨にうたれて寒さを際立せ、僕の身体はそれに反応して小刻みに震えた。

「さてと……」

次の授業の準備をするために内容を確認し、教室内の棚から道具を出しに中に入ろうとドアに手を掛ける。

……開かない。

またドアが壊れたのかと強めにスライドさせると鈍い音をたてながら少しだけ開いた。

1秒としないうちに勢い良くリターンしていくドアの隙間から原西が左手で弁当を、右手でドアを掴んでいるのが見えた。

中学生か!

と言うと殴りかかってきそうなので心の内に留めておく。

「ふざけてると次の準備が出来ないぞ。次はあいつの授業だ」

「残念だが俺の準備は出来ている」

原西の机に目をやると確かに次に使う道具が全て用意されていた。

対して僕の机の上にはというと、僕の前の席に座る中川の弁当箱が置かれていた。

「人の机を物置にするな」

「慧カーテン閉めてくれる?」

「無視するな!それにこっちは急いでるんだ」

「いいからはやくしろよー」

これ以上文句を言うと尚更余計な時間が取られそうだったので癪だが黙って従うことにした。

視界に先程とは違う外の景色が映り込む。
先程までふっていた雨がいつの間にか上がっていた。

「さあ始めるぞー」

ってそんなこと考えている場合ではなかった。

なんてことを考えても後の祭りである。こういう時に限って担当教師は足が速い。

「先生、ロッカーに教科書があるので取りに行ってもいいですか?」

「ダメー」

この教師本当に面倒くさい。
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