桜色の雪が降る

彼女は歌う

第8話 彼女は歌う

私たちは咲く ひと時で散り行く桜のように

私たちは願う 魅せられた世界で輝けることを

私たちは知る この世に輝きなどないことを

翼有る者に地を這う者ほど怖いものは無い

地を這う者は翼を求めて自ら苦しみを選ぶ

そうやって追われ逃げ回るうちにいつの間にか散ってしまう

真っ白なベッドの上で静かに歌う彼女はノックに気付いて口を閉じる。

「入るわよ」

ゆっくりと扉が開かれ、スーツに眼鏡といった生真面目そうな女性が白一色の部屋へと足を踏み入れた。

「いいよって言ってないけど」

その部屋の主は不満げな様子だ。

「着替えを持ってきたの。感謝してよね」

「ありがと」

着替えの袋を棚に詰めながら、女性は窓際に飾られた花に目を向ける。

「その花の手入れはちゃんとしているの?」

彼女は可憐に咲くその花に悲しげに微笑み、またすぐ下を向いた。

「酷い花だよ。ワスレナグサなんて」

「先生から貰った大切なものよ。そんな風に言わないで」

「これだけのことをしておいて、この仕打ちはないと思わない?」

女性は右手に何本も刺されている管を睨みつける。
細い腕に見合わない大きな針が薄らと見えた。
彼女の表情を覗くととてもいたたまれない気持ちになった。

「そうだ。事務所に何通も応援メールが届いていたわよ」

「そっか。みんな私を待っててくれているんだ」

「そうよ。なんて言ったって奇跡の歌声ですもの!大人気よ」

「もー、その言い方やめてよねー!」

2人でクスクスと笑う。

「じゃあ私はもう行くわね。さようなら」

腕時計を確認しながら女性は別れを告げた。

「なんでそんなもう会えないみたいな言い方なのさ」

「冗談よ。また来ちゃうよ」

「はいはい。お見舞いお疲れ様です」

女性は彼女に微笑むとその場を去った。
ドア越しにしばらく見送った後、スマホを取り出してアプリを開いた。
青いアイコンでSと書かれたアプリケーション。skypaだった。

もと: すっごい景色! 飛行機なうだよ!

海のように青い空が一面に広がり、雲を下に見据えた見事な写真だった。

翼有る者に地を這う者ほど怖いものは無い

地を這う者は翼を求めて自ら苦しみを選ぶ

そうやって追われ逃げ回るうちにいつの間にか散ってしまう

また彼女は静かに歌う。


第1章

彼女に届くようにこれを綴り、これは探しに行ける翼となる

続く
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