一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない

密会

「ほっ……宝来寺さん!」

 なんと神出鬼没な人だろう。

 こんなにも華やかなモデルオーラが惜しげもなく放たれているのに、全く気が付かなかった。


 深みのあるモカブラウンのスーツに、グレーのジレ。

 爽やかな淡いグリーンのシャツ、落ち着いた光沢を放つシルバーのネクタイ。


 難しい配色をさらりと着こなしているあたり、モデル界のプリンスたる風格を感じさせられる。

 長めの髪もいつもよりフォーマルにセットされていて、大人の男の色香が漂っていた。


 ……にも関わらず、このモデル界のプリンス様は、なぜか私と同じ低さまで姿勢をかがめている。

 子どもたちには、気付かれていないようだった。



「ど、どうしてここに……あれ? 挙式のとき、いらっしゃらなかった、ですよ、ね……?」

「あー、うん。仕事が押して遅くなって、さっき来たところ」

「どうりで……宝来寺さんいらっしゃったら、すぐに気付くはずですもん」


 一瞬、彼の瞳は子猫のようにまんまるになった。少し驚いたようだ。


「あ、えっと、すごく目立つ、でしょうから」


 たちまち、子猫のような瞳が、不機嫌そうな色を帯びる。

 難しい人だ。一体何が気に食わなかったんだろう。



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