出られない51の部屋

34の部屋




『互いの嫌いなところを一つ言わないと出られない部屋』
 


そんな文を見て、私とミケは顔を合わせる。
ミケは、へらっと笑ってみせ、私は肩をすくめ、部屋の真ん中へと足を運ぶ。
 
私は腰を下し、毎度同じように、私の左隣にミケは腰を下ろす。
 
「……梓は、俺の嫌いなところってある?」
「え? むしろ、好きなところよりは多いけど」
 
即答だった。
そんな返答に、ミケは目をまん丸にし、すぐに喉を鳴らして笑い始める。
 
「ははっ、そっか。んじゃ、梓の方からよろしく」
「……何を言うか迷うけど」
 
ミケの嫌いなところで、ミケに言うとしたら一つ、これしかないだろう。
 
「噓くさく笑うところ」
「ははっ、言うと思った」
「次、ミケの番」
 
私がそう言うと、ミケは「うーん」と上を向いて悩む。そんなミケの姿に、私は少し首を傾げた。
 
「どうしたの? 早く言ってよ」
「いやー、梓の嫌いなところって、思いつかないなーと」
「え、嘘」
「嘘じゃないって。ほんとに。俺、梓の嫌いなところ、思いつかないかも」
 
ミケの言葉に、私は目をまん丸にして、ぽかんと口を開けていた。
 
私の嫌いなところがない? 
そんなバカな。

ミケに対して、良いことをした覚えがない。愛想をよくしたこともない。
「なーんでだろーなー」なんて、ケラケラと笑いながら言うミケ。
「……ミケが答えをださないと、この部屋から出られないんだけど」
「そーだなー」
呑気に笑いながら言うミケに、私は少しムッとする。

「梓はさ、なんでそんなにこの部屋からでたいの?」

ミケの質問に、私は目を丸くした。

その疑問は、私の中では、私にとっても、ミケにとっても触れて欲しくないものだと思っていたからだ。それを聞いてしまったら、自分も答えなくてはいけなくなる、ということがわかっていた。だから、私もミケも聞かないとばかり思っていた。
 
「……答えたくない。ミケが答えるんなら、私も答える」
「ははっ、梓はせこい言い方するなー。……俺が、このままずっと、ずっとこの部屋にいたいって言ったら、どうする?」
 
自分の心臓が大きく音をたてた気がした。
 
思わぬ言葉に、私は体が固まる。
目を合わせるミケの瞳は、真っすぐで、冗談なんか言っているようには見えない。
 
「……っ」
 
私もずっと一緒にいたい。
……そう言ったら、ミケはどんな顔をするのだろう。

嬉しそうに笑うだろうか。いや、違うな。
 
冗談を言っているようには見えない、ミケの瞳。
けど、その瞳は、語っていた。

半分本気で、半分本心じゃないということを。
 
「……ミケ、全部本心にしてから言って」
 
私がそう言うと、ミケは苦笑いを零し、「ごめん」と一言。
そして、ミケは「あ!」と、何か思いついたように声をあげた。
 
「見つけた、梓の嫌いなところ」
「え……?」

ミケは、満面の仮面を見せてこう言った。
 
「梓が人間なところ」
 

ミケがそう言った瞬間、扉の開く音が聞こえた。
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