赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「国王陛下、ミス・シェリーをお連れしました」
「本日より陛下の教育係を務めさせていただく、シェリー・ローズにございます」
スヴェンに習い跪くと「堅苦しい挨拶はいらん!」と頭上から声が降ってくる。
ギョッとしたシェリーが顔を上げると隣のスヴェンは苦笑を零しており、周りの騎士や大臣たちも国王相手だというのに呆れた顔をしていた。
「待ちわびたぞ、シェリー」
「陛下、お戻りください!」
王座から飛び降りて、側にやってこようとするアルファスを大臣が引き留めた。
足を止めたアルファスは、眉間にしわを寄せて不本意だと言わんばかりに大臣を振り向く。
「お前は明日から、仕事にこなくてよい」
冷酷な命を下す国王に大臣の顔は青ざめ、よろけてしまうのを近くにいた騎士が慌てて支えていた。
「それでシェリー、なにからするのだ?」
当の本人は何事もなかったかのように、平然と話しかけてくる。この先も今のような行動がまかり通ってしまえば、アルファスは横暴な国王になってしまうだろう。
シェリーは罰せられるのを覚悟で「そうですね」と言いかけると立ち上がる。
「どうしたんだよ、急に立ち上がったりして」
きょとんとしている小さな国王をじっと見下ろし、無言の圧力をかける。アルファスの顔に戸惑いが滲みはじめたが、構わず腰に手を当てて眉を吊り上げた。
「まずは、さきほどの横暴な振る舞いについて説教いたします」
「え、説教? なんで僕が?」
威圧感をまとったシェリーをアルファスは驚きの表情で見上げる。
さすがのスヴェンもポーカーフェイスを崩し、目を丸くしていた。
国王相手になにを言い出すのかと、その場にいた人間全員が固唾を呑んで見守る中、シェリーは未来のアルオスフィアを担う王を叱る。
「国王とは人を導き、愛し、ときには戦い守る者。さて国を治めるのに必要なものとはなにか、お答えください陛下」
「えっと……地位とお金?」
コテンと首を傾げるアルファスの瞳はどこまでも澄んでいて、悪気がない。それがわかるので厳しい表情を緩め、やわらかい口調で語りかける。