ホワイトデーの約束
濡れた顔を彼の肩に押し付けられ、痛いほどに抱きしめられる。


「そんな嬉しいこと言われて、嫌うわけないだろう。
むしろ、もっと香奈に溺れちまう」


愛しい声が耳のすぐ傍で響いて、止められない涙が彼の肩を濡らしていく。


「・・・悪かった。だけど香奈の声を聞くとお前に触れたくて、自分でもコントロールができないんだ。だから仕事が落ち着くまではと、思っていたんだ」


縋るように彼の背に手を伸ばすと、回されていた腕にさらに力が強まる。


「ふ、うっ・・・せん、ぱい」
「本当に悪かった。でも、もう大丈夫だ。やることは全部終わらせてきた。
ここからの俺の時間は全部、香奈のものだ」


どれくらいの時間だったか、しばらく抱きしめあって涙が治まり始めた頃、ずっと背中をさすってくれていた先輩が私の顔を覗き込む。


「14日の、やり直しをさせてくれないか?」


思わず目を丸くして、彼の優しい瞳を見つめた。


「明日、一日休みを貰ってきた。香奈と一緒に過ごしたい」


せっかく治まったはずの涙がまた溢れてくる。
「私もだ」と言いたいのに、コクコクと頷くのが精一杯で、嬉しそうに笑う彼に胸が締め付けられる。


「もう誰にも邪魔させない」


数週間ぶりに重なった唇は、くっついては離れてを繰り返し、最後には深く繋がった。
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