エリート上司の甘く危険な独占欲
 責任の所在を曖昧にしようとする柊一郎に対して、颯真は強い口調だ。

「は?」
「ミスを見落としたのは佐脇課長だよね」

 颯真が目を細めて柊一郎を見た。その表情は、普段の彼からは想像できないほど険しい。

「ええ、まあ……。でも、直接事務的なやりとりをしているのは相原さんですから」

 柊一郎は決まり悪そうに、もごもごと口の中で言った。そうして腹立たしげに麻衣を見る。

 麻衣は大きな瞳を今にも泣き出しそうに潤ませていた。本当なら柊一郎がこのまま痛い目に遭ってほしいところだが、これでは麻衣があまりにかわいそうだ。

「一之瀬部長、このスタンドライトはいつまでカタログに掲載する予定ですか?」

 華奈の問いかけを聞いて、颯真が華奈に顔を向けた。

「カタログ有効期限は今年の九月だ」
「それまでの総合販売部の予定はどうですか? 目標販売量の設定に変動はあります?」
「変動は見込んでいない」
「でしたら、今月発注した分をキャンセルしましょう。それが無理でしたら、来月分で対応してはどうでしょうか」

 華奈はその場にいる全員に提案した。そうすれば解決するのでは、と思ったが、貿易管理部の青柳(あおやぎ)部長が言葉を挟む。

「だが、先月の商品の保管にかかる倉庫保管料はどうする? 増えた商品の分の保管料がかさめば、価格に転嫁せざるをえなくなる」

 さすがに入社三十年近い部長である。冷静な指摘だ。

「あー……それはですね……」
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