私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)

「田部さん、あの時…私を助けてくれたのは田部さんなんですよね」

あの部屋から幼い私を抱えて逃げてくれた人。

あの時、血まみれで死んだふりをし続けていたあの男の人。

それが、目の前にいる田部さんだ。

「…助けたなんて、私はそんな感謝されるような言葉をもらう資格なんてないですよ」

そう言って苦笑いを浮かべる田部さんはだけど、急に姿勢を正すと真っ直ぐに私に視線を向け、頭を下げた。

「すまない。私に勇気がないばかりに、キミをこんな目に合わせてしまった」

「そんな、田部さんのせいじゃないです!それに、田部さんが私をつれて逃げてくれなかったら、私はあの時殺されていたはずです」

「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ」

「…え?」

後悔に押し潰されそうな田部さんの表情に続きを聞くのが怖くなる。

だけど、もう立ち止まれない。そう決めたから、そうあるべきだと思うから。

「田部さん、教えてください。あの時、何があったのか。どうして田部さんがいたのか…」

「…あなたには、知る権利がある。…話します、あの家で起こっていた全てを」

顔を上げた田部さんは一度深い深呼吸をすると、視線を合わせてくれる。

「私は大奥様…陣之内華江様の筆頭執事でした。…そして、琴葉さん、あなたのお母様は私の部下の1人でした」

田部さんの言葉はすんなりと私の中に入っていく。そして、心のどこかで思っていた疑問がシャボン玉のように弾けて消えていく感覚があった…。
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