この恋。危険です。
真実

つれてこられたのは、彼と出会った場所。
'Canon '
知っている場所。しかも、たくやがいてくれるこの場所なら私も安心できる。
きっと、彼もそれをわかってここに連れてきてる。

ほぼ、開店と同時に2人で入店した私たちを見て、たくやは一瞬驚いたような顔をする。
「珍しいな。ボックス席にする?」
「否、たくやさんもいてくれてた方がいいから。カウンターで。」
たくやがいた方がいいってどういうこと?
彼の言葉にたくやは納得したようで「どうぞ」といつもの席に案内された。

適当にそれぞれワインとカクテルを注文する。
「んじゃ、必要なら声かけて。作業してるから。」
そういうと、たくやは少しだけ離れて、つまみなどの下ごしらえを始める。
たくやが離れると2人の間に沈黙が訪れた。今までになく緊張する。

彼が何を言うつもりなのかわからないけれど。彼に気を許してはならない。冷静になれ。
自分にそう言い聞かせる。

「友里。」
呼ばれた名前に心が震える。
「なんですか?」
「今から話すことはたくやさんも聞いてる。だから、嘘はつかない。信じて聞いてほしい。」
いつになく、彼の目は真剣だった。
「………信じるかどうかはわからない。でも、聞くだけなら。」
私の言葉に彼はほっとしたように微笑む。

「友里は勘違いしてる。俺は結婚していない。」
結婚してない?
「なら、彼女がいるんでしょ?」
「いない。いたら、食事なんて誘わない。」
嘘つかないっていったくせに、いきなり嘘?
「悪いけど、ドクターの言うことは信じられない。どうせ、みんなにそう言って誘ってるんでしょ?」
「どういう意味?」
彼が怪訝そうな顔をする。
「ドクターは簡単に浮気や不倫をするから。」
「確かにそんなドクターもいるけど、俺は違う。」
「どうだか。」
「俺、お前に好きってちゃんと言ったよな?!」
言われた。言われたけど……
「信じられるわけないでしょ?」
「なんでだよ。」
なんで?惚けないでよ。
彼の言葉にいらっとする。落ち着け、私。
「指輪してる人に言われて、信じられる人がいると思う?」

彼が、はっとしたような顔をする。
「これか。」
そういうと、ポケットにしまった指輪を私に見せる。
そういえば、院内ではつけてたけど、帰りに捕まったときはつけてなかった。
「ただの女避けのおもちゃの指輪。なんなら、今すぐ捨ててもいい。」
本当かどうか、彼の言葉だけじゃわからない。

それに、
「私見たわよ。女の人と仲よさそうに歩いてるの。」
しかもその人も指輪してた。遠目でデザインまでは見えなかったけれど。
彼がぽかんとする。本気で心当たりが無さそうな顔。
「いつ?」
「1週間くらい前。えっと、、新しい薬の副作用の話した日。」
しばらく考え込んだ後、
「あぁ。あの日は、前の病院で一緒だった先生の送別会だったんだよ。彼女は前の職場の同僚。場所がわからないからって言われて一緒に行くことにしてたんだ。」
ふーん。そうなんだ。
「彼女が奥さんでしょ?」
「は?なんでだよ。」
「だって、彼女も指輪してたじゃない。」
「あぁ。彼女は俺の友達と結婚してるから。」
「嬉しそうに、笑ってた……」
彼の顔が急に赤くなる。
「見てたの?それは……友里の話をしたから……好きな人とうまくいってるらしいねって、からかわれて…」
どこまで本当なのか、全然わからない。

「もしかして、病院で会ってからずっと、俺が結婚してると思ってた?」
「ほんとに結婚してないの?」
「してない。もしかして、友里が頑ななのは、それが理由?」

それもあるけど、それだけじゃない。でも、何て言えばいいのか、わからない。
うまく言葉にならなくて、もやもやする。

無言の私に対して、彼が困ったように笑う。
「俺は一度も結婚してるとも、妻がいるとも言ったことはないよ。Canonで会ったときは指輪してなかったから、友里はわかってると思ってた。」
わかるわけない。

今の会話だって、どこまで信じていいのかわからない。
むしろ、急に結婚してないなんて言われても、今さら簡単には信じられない。
だって、あんなに愛しそうに話してた。
< 34 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop