心にきみという青春を描く



先輩は葵さんが事故に遭ってから人物画を描くのをやめたと言っていた。いや、正確には葵さんをモデルにした絵が最後だったと言っていた。


先輩は絵に対しての意欲が薄れていたし、全日本のコンクールのことなんてどうでもよかったらしいけれど、周りの期待とコンクールを楽しみにしていた葵さんのために作品を完成させたと話してくれた。


その作品は無情にも最優秀賞を獲り、とてもいい評価をもらったけれど先輩は会場はおろか表彰式にさえ顔を出すことはなかった。


どんな気持ちで葵さんの絵を完成させたのか、私にはその苦しさは分からない。


きっと何度も絵を描くことをやめたくなったと思うし、憎らしい気持ちもあったかもしれない。

けれど、先輩は絵を嫌いになることはできなかった。


その代わりに、先輩は青いひまわりをずっと描き続けている。葵さんが好きだったアクリル絵の具を使って。

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