見て、呼んで、触れて
代わりになるで
★姫莉side★

これはうちが叶夜と付き合ってからの話や。
付き合ってから数日が過ぎたある日。
その日は夜遅くに叶夜がうちの住んでいるマンションに来た。
しかもびしょ濡れやった。

「え、叶夜どうしたん?」
ドアを開け、タオルを渡し、叶夜に聞く。
「・・・別に。ただの喧嘩」
叶夜は大きく溜息を吐いた。
依恋と喧嘩?
うちは依恋が怒った所でさえも見た事あらへんのに。
叶夜と依恋は多分本当に、ごく稀にしか怒られれん。
そんな2人の喧嘩なんて想像も出来ん。

叶夜はソファーに座り、頭をかく。
そして、頭を抱えて下を向く。
「こんな時にマリアがいてくれたら良かったのに・・・」
その声は凄く暗かった。
今までに聞いた事あらへん位に。
「マリア?」
うちは叶夜に聞き返す。
叶夜はその呟きがうちに聞こえとらんと思っとったらしく、目を見開いた。
「マリアって・・・。宙が言っとった秘密?」
ソファーに腰を下ろしながらそう聞く。
「・・・関係ない」
叶夜はうちに冷たく言い放つ。
まるでうちに知られる事を拒み、何重もの秘密の層で“マリア”を包み隠しとるみたいや。

「関係ある!そのマリアって子、うちとそっくりなんやろ?事故の事だってあるし・・・。それにうち、一応叶夜の彼女なんやし・・・」
自分で彼女って言ってまった。
自分で言ったんやけど、なんかめっちゃ照れる。
「やでさ、うちが代わりになったる。それで叶夜が喜ぶんやったら、うちがマリアって子の代わりになる」

叶夜は顔を上げ、うちの顔を見る。
「・・・本当?」
「うん、任せとき!」
うちは拳で胸を叩く。
「ありがとう」
叶夜は笑顔になった。
凄く優しくて柔らかい笑顔。
あまり見た事のない叶夜の表情に少し戸惑ったが、うちも笑い返す。

うちがマリアの代わりにをする。
それはうちと叶夜が、より幸せになる為の選択。

でもこの時、うちはまだ知らんかった。
叶夜のその笑顔は一体誰に向けての笑顔なのかを。
あまり、ちゃんと理解出来なかった。
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