☆君との約束



「陽向、俺代わるから……お前は先に行け」


俺がそう言うと、陽向は泣きそうな顔で笑って。


「良いよ。手を汚すのは、俺だけで」


そう言いながら、鞘に剣を仕舞う。


―昔から、ずっと思ってた。


自分は父の子供ではないのではないか、と。


母は『間違いなく、あんたは陽向と共に私が産んだ子供だし、あんたは当主の陽介じゃなくて、一人の人間としての陽介に似てんの。気にしなくていいから』と、言ってくれたけれど……。


自分には、御園の空気があってない。


母についてこの家に来てから、ずっと、感じてた。


人を疑うことが出来ない。


人の心を探れない。


やる前に、罪悪感が勝ってしまう。


そんな俺の代わりに、いつも憎まれ役になってくれる陽向は唯一見つけた大切な光さえ、家のせいで失いかけている。


「それは……」


「良いんだ。俺にやらせて」


「……」


「莉華を守れなかったことを、自分自身に思い知らせたいんだ。こんなにも無力なんだと」


そんなことない。


そう言いたかった。


でも、莉華が壊されたのは事実で、だからこそ、俺は何も言えなくて。


「―なら、帰るぞ」


「……」


「必ず、ここから生きて帰る。母さんも父さんも待ってる。こんな所でくたばる訳にはいかないだろう?俺にだって、魅雨がいる。だから、絶対に帰る」


俺達が失うのは、自由だ。


どれだけ血腥いことをしても、絶対に捕まえられない。


何故なら、絶対的な情報操作が御園を支えているからだ。


その恩恵で、莉華を壊した御前。


落とし前をつけるには、御前の手によって用意されたこの暗殺トラップを抜け出さなければならない。



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