☆君との約束



莉華だけを見つめていてもいいが、流石にそれだけだと、本を貸してくれた総司に笑われそうなので、読んでみる。


因みに読んでいるのは、ドストエフスキーの『罪と罰』。


大して、意味があるわけじゃないよ。


たまたま、この本になっただけ。


静かすぎる環境の中、活字を目で追っていると、


「陽向さん、読書中ごめん。私、ちょっと飲み物を買ってくるね」


と、魅雨に話しかけられて。


「分かった。あ……相馬と」


「依ちゃんの分も、ちゃんと買ってくるよ。ジュースでいいかな?」


「うん。ごめん、ありがとう」


「気にしないで」


十九で出会ってからというもの、魅雨は本当に感情豊かな、良い奥さん……もとい、良いお母さんになった。


依も相馬も懐いていて、相馬の母親も、和子じゃなかったら……なんて。


「依、相馬」


「なあに?ひなくん」「?」


「折り紙、楽しい?」


「うん!ほら、指輪!」「……」


依も、こういう時は笑顔を見せてくれる。


多分、簡単に笑えなくなったのは、毎度の事ながら、誹謗中傷の多い御園の葬式のせいだ。


そこで、心のない言葉をあびせられたんだろう。


どうせ、そんなところだ。


子供の心は繊細で、


どんなに難しい言葉でもちゃんと、理解しているのに。


それを配慮できない大人達は、平気で言葉の暴力を子供たちに浴びせて。


そんなんで、誰が生きていきたいと思うんだ。


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