桜の季節
春の訪れ
春が来た。
春が来てしまった。
そう思わせるのは、満開に咲く桜だった。
僕は春が来てほしくなかった。

まだ、春が来る前の肌寒い頃、僕は学校の同級生に好きな人がいた。
彼女は春美という名前で、その名前のとおり春のように美しかった。
そして、まだ花がひとつも咲いていない桜の木の下で「好きです、付き合ってください」と思い切って告白した。
すると、彼女は「いいよ」と言った。
僕は心のなかでとても喜んだ。
しかし、その答えにはまだ続きがあった。
「でも、約束があって春になったら別れる」
と彼女は笑顔で言った。
僕は意味がわからなかった。なぜなのか聞こうとしたが、聞かなかった。
なぜなら、僕は彼女の答えが遊びで付き合うだけとかだったら怖かったからだ。
そして、彼女は「じゃあね」と笑顔で立ち去った。


それから、僕と彼女の日々が始まった。
最初は緊張して彼女の話題にうまくのれなかったりしたが、いつしか彼女のペースにつられて自分から話題をふっていたり、自分の愚痴を聞いてもらったりして、気がつくともう緊張はしておらず、互いにたわいもない話をしていた。
そして、買い物デートや遊園地に行ったりした。
そんな日々は日に日に増して楽しくなっていった。
そんな楽しい日々を過ごしていると僕の頭のなかには彼女との約束のことなどいつの間にかなくなっていた。


彼女に告白した頃より、もうだいぶ暖かくなった頃、彼女が突然独り言のようにポツリと呟いた。
「桜の蕾が膨らんできたねー」
僕はその一言でふと彼女との約束を思い出した。
「もうすぐ春だねー」なんて答えると、彼女は「そうだねー」と寂しそうな顔をしながら答えた。


そして、桜の花がポツポツ咲いて行き、満開になったときのある日、
「もう春が来たね」と彼女は言った。
僕はできれば聞きたくなかった。
けれどいつかはこの時が来ることはもう覚悟していた。
「別れよ」と彼女は笑顔で言った。
しかし、その笑顔の中には一粒の涙があった。
それが何の涙か聞こうとした時、彼女は走り去って行った。


それから数日間彼女のことを忘れようと思ったが、やはり彼女の涙のことが引っ掛かり忘れられなかった。
彼女の涙の理由だけ聞こうと、彼女と話そうと思ったが、彼女は別れた日から学校に来なかった。
なので僕は彼女の家を訪ねた。
インターホンを鳴らすと彼女の黒服のお母さんらしき人が出てきて「どちら様ですか?」と目を腫らしながら尋ねてきた。
僕は「春美さんの友達です、最近学校来てないので心配で、春美さんどうかしたんですか?」
すると、深刻な顔をして「ごめんね、春美は3日前に病気で、、、」といいかけ目に涙を浮かべた。
そして涙を拭くと彼女が余命宣告されていたことを教えてくれた。
僕はそれを聞くといつしか涙が溢れていた。
そして彼女の仏壇の前で線香をあげさせてもらい、
気がつくと僕は満開の桜の木の下で散っていく花びらを見ていた。













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