副社長と恋のような恋を
「ちょうどいいです」

「そう」

 横になったからといって、すぐに眠れるものでもない。隣に副社長がいればなおさら眠れない。

「そんなに緊張しなくても」

「普通しますよ」

「じゃあ、なにか話そうか?」

「なにかって?」

 すごく近い距離に副社長の顔がある。眠れなければずっと副社長の顔を眺めてればいいか、と思った。

「あのあと、お母さん、なにか言ってきました?」

「いや。ただ、お見合い写真を束のように送ってきた。全部、送り返したけど」

「そう、なんだ」

「なんか複雑そうな顔。嫉妬してくれたなら嬉しいな。あ、あと送り返したとき、結婚するなら麻衣とするってメモも付けておいた」

 びっくりして思わず起き上がった。

「なにしてるんですか!」

 口から出た声は随分ととげとげしいものになった。

「なにって、事実を書いたまで。あれぐらいはっきり意思表示をしておかないと、今度は無理やりお見合いをさせられるかもしれないから」と言って、副社長は私の腕を引っ張った。私はもう一度、ベッドに横になる。

「ごめん。でも、俺たちの始まりは婚約者ごっこだよ」

「そうですけど。婚約者ごっこという割には、恋人ごっこに近かったと思うけど」

「そうかな? じゃあ、恋人同士がすることってなに?」
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