副社長と恋のような恋を
九時に会いにきて
 副社長と別れてからは仕事で話すことはあるけれど、それ以外では連絡を取っていない。誕生日のあとは、何度もメールがきたけれど、今は月に二回だけメールが来る。

 それはもう一度付き合ってほしいとか、会いたいとか、そういうのではない。

 萩野明の新作の小説だった。どこかに発表されることもない小説。その小説への感想を返信することはないけれど、必ず読んでいる。

 それは小さな女の子がマフラーを編む話。そのマフラーには、女の子が見つけた好きなものを編み込んでいく。野の花、猫のひげ、鳥の羽、七色に変化する糸など。マフラーが編み終わると、女の子は必ずおばあさんにプレゼントをしに行く。そんなほのぼのとした話だ。そして、小説の最後には副社長が描いた絵の画像が添付されていた。

 いつか副社長の絵を見せてほしいと言ったことを、律義に守っているのだろうか。でも、その絵の感想を伝えることはもうない。

 arkの小説のほうは、八月に発売することが決まった。ウェブは五月から七月の限定公開になる。その公開が終わって一か月後。八月の発売に向け、ウェブ用に書いたものを加筆修正しているところだ。
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