背徳の王太子と密やかな蜜月
(……まぁ、そうやってすっとぼけてもらってた方が、ちょうどいいのかもしれないけどな)
彼は出会ったばかりの頃に彼女にキスをしたことがある。あの時不確かだった気持ちが徐々に輪郭を持ちはじめ、今では逆に、気安く彼女に触れることができなくなっていた。
そのくせ、ほかの誰かが彼女にちょっかいを出すことを考えると、気が狂いそうになる。勝手だとわかってはいても、イザベルを籠の中にでも閉じ込めておきたい衝動に駆られるのだ。
とはいえ、彼女を小屋からあまり出させない理由はそれだけではない。
単純に危険な目に遭わせたくないというのはもちろん、生きるためとはいえ強奪などの犯罪に彼女を加担させたくないという思いもあった。
(俺と違って、イザベルには未来があるかもしれないのだから――)
そこまで考えると、アロンソは自分の手のひらを見つめた。
イザベルのことは好きだ。ときどき、ひとつ屋根の下で暮らすことが苦しくてたまらなくなるくらいに。だけど……好きだからこそ、それとは矛盾した思いを抱く自分もいる。
今はこの小屋に彼女を閉じ込めていても、いつかはこの狭い世界を飛び出して、日の当たる場所で幸せになって欲しい。
綺麗なドレスに、アクセサリー。美味しい食事に、温かい部屋、広い寝床。そういう幸せを与えてやれる男と出会って、豊かな暮らしを送って欲しい――。